解剖
収支

「イランと戦争だからガソリンが高い」は本当か。便乗値上げの構造と、それでも安く入れる方法

中東情勢が緊迫してもガソリンが200円に近づく本当の理由は別にある。日本の石油調達構造・備蓄政策・為替の影響を数字で検証する。軽貨物ドライバーが今できる燃料費対策と、この状況でも続けるべきか判断するための収支計算の基準を整理する。

2026年3月12日

ガソリンが190円を超えた。

「イラン情勢が緊迫しているから」「戦争リスクがあるから」——ニュースはそう説明する。

しかし待ってほしい。日本はイランから石油をほとんど輸入していない。米国の制裁でイランからの輸入は実質ゼロに近い状態が続いている。

なのに、なぜガソリンは上がるのか。本当に「戦争のせい」なのか。それとも便乗値上げか。

軽貨物ドライバーにとって燃料費は死活問題だ。仕組みを理解した上で、対策を考える。


日本の石油はどこから来るのか

まず事実を確認する。

日本の原油輸入先(2024年度・資源エネルギー庁データより)の上位は以下のとおりだ。

輸入先シェア(目安)
サウジアラビア約40%
アラブ首長国連邦(UAE)約30%
クウェート約8%
カタール約5%
その他約17%

イランはこのリストにほぼ登場しない。米国主導の経済制裁(2018年〜)により、日本はイランからの原油輸入を事実上停止している。

つまり「イランと戦争だから石油が入らない」という直接的な因果関係は、日本には当てはまらない。


それでも価格が上がる本当の理由

① ホルムズ海峡リスク

ここが核心だ。

日本に届く原油のほぼすべてはペルシャ湾→ホルムズ海峡→インド洋というルートを通る。このホルムズ海峡は幅が最も狭い部分で50km程度しかなく、イランが西岸を支配している。

イランが「ホルムズ海峡を封鎖する」と宣言した瞬間、日本への石油供給は止まる可能性がある。イランから直接買っているかどうかは関係ない。

このリスクが高まると、原油の先物市場で「将来の供給が減るかもしれない」という予測が価格に織り込まれる。実際に供給が止まる前に、価格は上がる。

② タンカーの保険料と運賃の上昇

紛争リスクが高まると、タンカーの戦争リスク保険料が跳ね上がる。運航コストが増えれば、石油の輸送コストも増える。これが仕入れ価格に上乗せされる。

③ 円安の影響

原油の取引はドル建てだ。円安が進むほど、同じ量の石油を買うために多くの円が必要になる。2024〜2026年にかけての円安は、ガソリン価格の押し上げ要因として無視できない。


「便乗値上げ」はあるのか

ここからは断定できない部分を含む。注意して読んでほしい。

石油業界では**「ロケット&フェザー現象」**と呼ばれる価格の非対称性が指摘されている。原油価格が上がるとガソリン価格はすぐ上がるが(ロケット)、原油が下がってもガソリン価格はゆっくりとしか下がらない(フェザー)というものだ。

この非対称性は、「戦争リスク」「補助金縮小」など合理的な理由が並んでいる時期に特に機能しやすいという見方がある。「どうせ上がる理由があるなら、マージンを少し厚くしても文句は言われない」という判断が末端の小売業者に働く可能性は、理論上否定できない。

ただし、これを「便乗値上げだ」と断定するには証拠がない。業者ごとの価格競争は存在するし、元売り・卸・小売の各段階でのマージンは当局の監視下にある。

結論として言えること:「戦争リスクが価格に乗るのは仕組みとして正当だが、その乗り方が適正かどうかは消費者には見えない」——それが現実だ。


軽貨物ドライバーが今できる燃料費対策

方法1:法人向けガソリンカードを使う

個人事業主でも法人カードに近い条件で使える給油カードがある。

  • ENEOSカード・出光カードなどのフリート系カード:1〜3円/L割引
  • クレジットカードのポイント還元:実質0.5〜1%の割引相当
  • 特定スタンドの会員価格:地域密着の独立系スタンドは競争価格を出していることがある

月250L給油なら、3円/L安くなるだけで月750円・年9,000円の差になる。

方法2:安いスタンドを把握する

Gogo.ev・価格.com ガソリン価格などのアプリ・サイトで、エリアの最安値スタンドをルート沿いに把握する。

10円/L安いスタンドを使えば月250Lで月2,500円・年30,000円の差だ。遠回りしてまで入れるのは本末転倒だが、通り道のスタンドを意識するだけで違う。

方法3:燃費改善で消費量を減らす

価格が下げられないなら、消費量を減らすしかない。

  • 急加速・急ブレーキの排除:燃費10〜15%改善の可能性
  • タイヤの空気圧管理:適正空気圧で燃費2〜3%改善
  • アイドリングストップの徹底

月250Lが225Lになれば、ガソリンが10円高くなっても実質負担は変わらない計算だ。


やめざるを得ない時の判断基準

燃料費高騰が続けば、「続けるか、やめるか」という判断を迫られるドライバーが出てくる。

感情的に判断する前に、数字を出す。

採算ラインの計算式

月の手取り = 売上 − 燃料費 − 車両費 − 保険 − 通信費 − その他経費

この手取りが、自分が「これ以上は無理」と感じるラインを下回ったときが、撤退を考えるタイミングだ。

感覚ではなく、月次で数字を出し続けることが判断の精度を上げる。

軽貨物以外の選択肢

完全にやめる前に検討できる選択肢を挙げる。

① 高単価案件への移行 冷凍・冷蔵品配送、医療機器・精密機器輸送など、特殊性がある案件は単価が高い。免許・資格が不要なケースも多い。

② 他の小型輸送へのシフト バイク便・自転車便(都市部)、軽トラ・1.5tトラックへの乗り換えで単価帯が変わる可能性がある。

③ 完全な業種転換 軽貨物で培った「時間管理・自己管理・顧客対応」のスキルは、他業種でも評価される。同じ個人事業主として、清掃・介護・建設補助などへの転換事例は多い。

「続けるか、やめるか」は二択ではない。どうやって続けるか、どうやって移行するかを含めて考える。


ガソリン価格に振り回されないために

ガソリン価格は、一個人の力では変えられない。

変えられるのは、消費量・入れ方・採算の考え方だ。

「戦争だから仕方ない」で思考を止めると、じわじわと手取りが削られ続ける。仕組みを知った上で、自分が動かせる部分だけを動かす。

それが、価格に振り回されない唯一の方法だ。


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