辞める意思を伝えた途端、見たことのない請求書が届く。
「入社研修費:¥50,000」「制服・端末費:¥30,000」「契約解除違約金:¥100,000」——
最終月の報酬から「相殺」という形で天引きされ、手元に残るのは数千円、あるいはゼロ。これが「退職時売上相殺」と呼ばれる慣行だ。
なぜ退職時に請求が発生するのか
委託会社にとって、ドライバーの退職は「収益源の喪失」だ。特に稼働中のドライバーが辞める場合、補充コスト(求人広告費・採用コスト・引き継ぎ期間の損失)が発生する。
この損失を「合法的に」ドライバーへ転嫁する手段が、退職時の相殺請求だ。
契約書の「その他諸費用を報酬から控除できる」という曖昧な条項を根拠に、在職中は一度も請求されなかった費用が、退職時にまとめて請求される。
3ヶ月前から始める準備
STEP 1(3ヶ月前):契約書を再確認する
契約書の以下の項目を確認する。
- 相殺可能な費用の範囲(明確に列挙されているか)
- 違約金・解除料の条件と金額
- 予告期間の規定(何日前に通知が必要か)
- 研修費・備品代の返還規定
「その他諸費用」という文言だけで請求できるなら、金額は無制限になりうる。 この場合、退職前に内容の確認を書面で求めることが有効だ。
STEP 2(2ヶ月前):現物の記録を残す
委託会社から貸与・指定されたもの(端末・制服・IDカード等)の状態を写真で記録する。
- 受取時の状態と現状を比較できるようにしておく
- 返却時にも同様の記録を取る
貸与品の「損傷」を口実にした費用請求を防ぐための証拠保全だ。
STEP 3(1ヶ月前):退職の意思表示を書面で行う
口頭での退職申し出は「言った・言わない」のリスクがある。
メールまたは書面で退職の意思を伝え、送信記録・受領確認を保存する。
「本メールをもって、〇〇年〇〇月〇〇日をもって業務委託契約を終了する旨をお伝えします。契約書第〇条の予告期間に基づく通知です。」
退職時に請求が来た場合の対処法
確認すべき3点
1. 契約書に記載があるか 契約書に記載のない項目を請求することは、原則として認められない。請求書を受け取ったら、根拠条項の提示を求める。
2. 具体的な金額の根拠があるか 「研修費¥50,000」であれば、何の研修で、誰が何時間実施し、費用がいくらかかったかの内訳を求める。根拠を示せない請求は争う余地がある。
3. 報酬との相殺は同意していたか 相殺するためには、原則として双方の同意が必要だ(民法505条以下)。一方的な相殺通知は、法的に有効でない場合がある。
「支払わないと訴える」と言われたら
脅しに近い言葉が出た場合でも、冷静に対応する。
- 請求内容の根拠資料を書面で提出するよう求める
- 「検討の上、回答します」と伝え、その場での回答を避ける
- 内容証明郵便での回答を選択肢に含める
実際に少額訴訟や民事調停に持ち込まれるケースは少ない。なぜなら、根拠のない請求であれば、訴訟で委託会社側が負けるリスクがあるからだ。
最後の報酬を「先に確保する」
退職時の最終報酬が振り込まれる前に相殺通知が届くケースがある。
可能であれば、退職月の稼働後、報酬の振込を確認してから退職手続きの残り工程を進める順番を意識する。すでに振り込まれた報酬に対して相殺を主張することは、委託会社側が別途法的手段を取る必要があり、ハードルが上がる。
辞めることは権利だ。準備なく辞めると、最後の数ヶ月分の収入が「相殺」によって消える。3ヶ月前からの準備が、退職時のリスクを最小化する。
本記事は情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の状況については、労働基準監督署または弁護士にご相談ください。