振込予定日を過ぎても、報酬が来ない。
連絡しても「確認中です」「少々お待ちください」のまま数週間が過ぎる——
委託会社の資金繰りの悪化、意図的な不払い、単純なミス。理由はさまざまだが、未払いが起きたときの初動を知っておくことが重要だ。
まず確認:支払期日の「60日ルール」
個人で受託しているドライバーの報酬には、法律で支払期日の上限がある。
- フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律):従業員を使う発注事業者などは、ドライバーから役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定め、その日までに支払わなければならない(4条)。期日を定めていなければ役務の提供を受けた日が、60日を超える期日を定めていれば60日を経過する日が、支払期日とみなされる。なお、元請からの再委託であることなど所定の事項が示されている場合は、元委託の支払期日から30日以内という例外がある。
- 取適法(2026年1月施行・旧下請法):資本金・従業員数の規模要件を満たす委託でも、同じく60日以内の支払期日が義務づけられ(3条)、遅れた場合は遅延利息を払う義務がある(6条)。
「月末締め翌々月払い」のように、稼働日から60日を超える支払サイトになっていないか、契約書と明細で確認しておく。期日を過ぎた不払いは、民事で請求できるだけでなく、公正取引委員会などの窓口に申し出ることができる。
未払い発生から動くタイミングの目安
| タイミング | 行動 |
|---|---|
| 支払日当日 | 振込確認・担当者へ連絡 |
| 翌日〜3日後 | メール等の書面で正式に確認を求める |
| 1〜2週間後 | 内容証明郵便の準備・送付 |
| 期限を過ぎても払われない | 支払督促・少額訴訟を検討。窓口への相談・申出 |
早く動くほど、回収しやすい。相手の資金繰りが悪化している場合、時間が経つほど回収できる財産が減っていく。
STEP 1:証拠の整理
請求の前に、以下を整理する。
- 業務委託契約書、または取引条件が書かれたメール・LINE(報酬額・支払期日)
- 稼働記録(日報・配送記録・アプリのログ等)
- 過去の支払い実績(通帳記録・振込明細)
- 報酬明細書・請求書(交付・発行していれば)
- 担当者とのやり取り記録(メール・LINE等)
稼働実績と契約上の報酬額を照合し、未払い総額を計算する。 請求書を出していなければ、まず請求書を出す(請求書作成ツール)。
STEP 2:内容証明郵便の送付
内容証明郵便は、「いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに出したか」を日本郵便が証明する制度だ。それ自体に支払いを強制する効力はないが、正式に請求した事実が残り、後の手続きの証拠になる。配達証明を付けると、相手に届いた日も証明できる。
内容証明の書き方(基本フォーマット)
令和〇年〇月〇日
〒〇〇〇-〇〇〇〇
〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇 殿
〒〇〇〇-〇〇〇〇
〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
〇〇 〇〇(送付者氏名)
報酬支払請求書
私と貴社との間で締結した業務委託契約(令和〇年〇月〇日付)に基づき、
下記の通り報酬が未払いとなっております。
記
未払い期間:令和〇年〇月〇日〜令和〇年〇月〇日
未払い金額:金〇〇〇,〇〇〇円
支払期限:本書面到達後14日以内
期限までにご入金がない場合は、法的手続きを検討いたします。
以上
※上のフォーマットは文面の例で、行の長さは内容証明の字数制限に合わせていない。実際に出すときは下の規則に合わせて組み直す。
内容証明の規則(日本郵便):
- 謄本の字数・行数は、縦書きなら1行20字以内・1枚26行以内。横書きなら「1行20字以内・1枚26行以内」「1行13字以内・1枚40行以内」「1行26字以内・1枚20行以内」のいずれか
- 郵便局には、相手に送る文書1通と、同じ内容の謄本2通(差出人用・郵便局保管用)を持って行く
- 内容証明を取り扱う郵便局の窓口で差し出す。インターネットで24時間受け付ける「e内容証明」もある
STEP 3:支払督促(金額の上限なし)
相手が請求の中身を争っていない(払う気がない、払えない)ケースでは、支払督促が速い。
- 相手(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる。書類審査のみで、裁判所に出向く必要はない
- 金額の上限はない
- 支払督促が相手に届いてから2週間以内に異議が出なければ、仮執行宣言の申立てができる(申立てができるようになってから30日以内に申し立てないと、支払督促は効力を失う)
- 仮執行宣言付支払督促が出れば、それに基づいて強制執行(預金や売掛金の差押え)を申し立てられる。相手はこれが届いてからさらに2週間は異議を出せる
- 相手が異議を出すと、通常の訴訟に移る(請求額140万円以下なら簡易裁判所、超えれば地方裁判所)
相手が「そもそも払う義務はない」と争いそうなら、最初から少額訴訟か通常訴訟を選ぶ方が二度手間にならない。
STEP 4:少額訴訟(60万円以下の場合)
未払い額が60万円以下なら、少額訴訟が使える。弁護士なしで本人が起こせる手続きだ。
- 審理:原則1回の期日で審理を終え、その日に判決が出る。最初の期日までに主張と証拠をすべて出しておく必要がある
- 回数制限:同じ簡易裁判所で年10回まで
- 費用:訴え提起の手数料(請求額10万円ごとに1,000円)+郵便費用
- 通常訴訟への移行:相手が申し出た場合や、裁判所が複雑と判断した場合は通常訴訟に移る
- 不服申立て:判決に対しては異議申立てのみで、控訴はできない
申立に必要なもの
- 訴状(裁判所の定型書式が使える)
- 証拠書類(契約書・稼働記録・未払い明細等)のコピー
- 相手が法人なら、登記事項証明書
簡易裁判所の窓口で、書式や書き方の案内を受けられる。
会社が倒産していた場合
委託会社が破産などをしていた場合、個人で全額を回収するのは難しくなる。
1. 破産手続での債権届出 破産手続が始まっていれば、裁判所から通知される期間内に債権を届け出ることで、配当を受けられる可能性がある。
2. 代表者個人への請求 財産隠しなど悪質な事情があれば、代表者個人の責任を問える場合がある。弁護士への相談が前提になる。
3. 未払賃金立替払制度(労働者と認められる場合のみ) 実態として労働者と認められる場合に限り、独立行政法人労働者健康安全機構の「未払賃金立替払制度」を使える可能性がある。業務委託のままでは原則として対象外だ。
一人で動ける限界と相談先
内容証明・支払督促・少額訴訟は自分でできる手続きだ。ただし、相手が争ってきた場合や金額が大きい場合は、専門家の支援を検討する。
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託・第二東京弁護士会運営):0120-532-110。弁護士に無料で相談でき、和解あっせんの手続きもある
- 公正取引委員会・厚生労働省:フリーランス法の違反申出窓口
- 法テラス:収入が一定以下なら弁護士費用の立替制度がある
- 弁護士費用特約:自動車保険などに付帯していれば使える場合がある(事故以外の日常の法律トラブルが対象外の特約もあるため、補償範囲を確認する)
報酬の請求権は、原則として権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかる(民法166条1項1号)。とはいえ、早く動くほど回収可能性は高い。
本記事は情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の状況については、弁護士またはフリーランス・トラブル110番にご相談ください。
参照した一次資料
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 4条(e-Gov法令検索)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律 3条・6条(e-Gov法令検索)
- 日本郵便「内容証明 ご利用の条件等」(日本郵便)
- 法務省「督促手続について」(法務省)
- 民事訴訟法368条・373条・377条・391条〜393条(e-Gov法令検索)
- 裁判所「少額訴訟」(裁判所)