あなたの会社で、直近1年間に何人のドライバーが辞めたか。
採用広告を出して、面接して、車両を用意して、研修して——3ヶ月後にいなくなる。この繰り返しが、軽貨物委託会社の経営体力を静かに削り続けている。
1人辞めると、いくらかかるのか
ドライバー1人の離職コストを、項目ごとに置いた仮定で筆者が試算した。自社の実額に置き換えて計算し直してほしい。
| 項目 | 試算額 |
|---|---|
| 求人広告費(Indeed・軽貨物専門媒体) | ¥30,000〜¥100,000 |
| 面接・選考にかかる人件費(担当者2時間×時給換算) | ¥5,000〜¥10,000 |
| 車両準備・整備(リース契約手続き等) | ¥20,000〜¥50,000 |
| 研修・同乗指導(先輩ドライバー稼働損失) | ¥30,000〜¥60,000 |
| 離職後の欠員による機会損失(月1〜2週分) | ¥60,000〜¥100,000 |
| 合計(筆者試算) | ¥145,000〜¥320,000 |
これは1人あたりの数字だ。年間5人が3ヶ月以内に辞めれば、筆者試算で年間¥725,000〜¥1,600,000が消える計算になる。
採用コストは「払った求人広告費」だけではない。
なぜ3ヶ月で辞めるのか
辞めるときに伝えられる理由が「一身上の都合」でも、その手前には構造的な原因があることが多い。委託ドライバーの契約構造から考えると、少なくとも次の3つは経営側で手を打てる。
1. 入社前の期待と現実のギャップ
「日当¥16,000」という求人を見て入ったドライバーが、燃料費などの経費を引いた後に手元に残るのは¥13,000〜¥14,000程度になる(筆者試算)。
求人票に日当だけを書き、経費が引かれることや、研修期間の日当が別であることを入社前に説明していなければ、ドライバーは「聞いていた話と違う」と感じる。一度そう感じた相手に、残る理由はない。
2. 単価交渉ができない環境
3〜6ヶ月稼働して実績をつけたドライバーが「単価を上げてほしい」と言えない会社は、上限が見えた瞬間にモチベーションを失う。
「うちは一律でやってるから」という回答が続くと、ドライバーは「ここにいても増えない」と判断して競合他社に移る。最低でも稼働実績に応じた単価見直しの基準を明示することが、中期の定着に直結する。
3. 事故・トラブル時のサポート不足
配達中の軽微な接触事故でも、「全額自己負担」「保険は自分で使え」という対応をする会社が今も存在する。
ドライバーは個人事業主であっても、業務指示のもとで動いている。事故時に会社が動かないと判断した瞬間、信頼関係は終わる。問題は「全額負担させたかどうか」ではなく、「会社が一緒に動いてくれるか」という心理的安全の有無だ。
定着率を上げる3つの施策
施策1:入社前に「実質手取りの計算」を見せる
求人票の日当と、経費を引いた後の実質手取りの両方を明示する。「うちの場合、日当¥16,000から燃料・車両維持費を引くと手残りは¥13,000〜¥14,000になります」という説明を面談で必ず行う。
研修期間の日当が通常と違うなら、その金額・期間・理由も同じ場で伝える。最初に正直に伝えておけば、「思っていたより少ない」という理由の早期離職は減らせる。
施策2:稼働実績に連動した単価テーブルを設計する
「月20日以上稼働・事故ゼロ・3ヶ月継続」でプラス¥500、「半年継続」でさらにプラス¥500——というように、目に見える報酬の上限を作る。
金額は小さくていい。「頑張れば上がる」という見通しがあるだけで、ドライバーの行動が変わる。
施策3:事故対応の「会社の動き方」を事前に明文化する
「事故が起きたら、まず会社の担当に連絡してください。初動の対応は一緒に考えます」という一文を、入社時の説明資料に入れる。
保険や賠償の問題は別として、「一人じゃない」という実感が定着率に効く。これはコストゼロで実装できる。
定着率より先に解決すべき問題
施策の前提として、定着率が低い根本原因が「単価の低さ」である場合がある。
委託会社が元請けから受け取る単価が低ければ、ドライバーに払える日当も低くなる。日当が低ければ定着しない——この構造は、ドライバーへの施策だけでは解決しない。
元請けへの交渉・複数荷主の確保・直接取引の開拓が、中長期の人材定着に直結する。荷主から直接仕事を受けられる会社は、中間マージンがない分だけ、ドライバーへの配分を増やせる余地がある。
荷主に直接見つけてもらうためのHP戦略は、直取引を獲得するためのHP戦略で整理している。
まとめ
| 離職の原因 | 対策 |
|---|---|
| 入社前の期待と現実のギャップ | 実質手取りを面談で正直に伝える |
| 単価の上限が見えない | 稼働実績連動の単価テーブルを設計する |
| 事故時のサポート不足 | 会社の初動対応フローを明文化する |
| 単価構造そのものの問題 | 直取引・複数荷主の開拓で分配原資を増やす |
ドライバーを定着させることは、採用コストの削減であり、現場の安定であり、荷主への信頼にもつながる。「また辞めた」を繰り返す前に、一度コストを数字で計算してほしい。
本記事の離職コスト・手取りの数値は筆者試算です。実際の数値は会社規模・採用方法・地域によって異なります。