売上は増えた。台数も増えた。なのに、手元に残るお金が増えていない。
これは個々の会社だけの話ではない。東京商工リサーチの調査では、2023年の貨物軽自動車運送業の倒産は49件、休廃業・解散は74件で、合計123件と3年連続で過去最多を更新した。同じ調査で、比較可能な269社の売上高は2019年比で21.0%増えた一方、利益は36.1%減っている。売上が伸びても利益が残らない構造が、業界全体に広がっている。
利益を食い尽くす5つのコスト
コスト1:燃料費
燃料費は本来「変動費」だが、稼働台数が決まっている以上、実態は毎月ほぼ固定で出ていく。
ガソリン¥190/L・月22日・1日100km・燃費12km/Lで計算すると、1台あたり月約¥34,800(試算)。10台なら月約¥348,000になる。燃料サーチャージを単価に反映できていなければ、ガソリン価格の上昇はそのまま利益の圧縮になる。
コスト2:保険料
業務用の自動車保険は、等級・車両・補償内容で大きく変わる。1台年¥150,000と置けば、10台で年¥1,500,000(筆者試算)。事故で保険を使えば、翌年以降の等級が下がり保険料が上がる。
コスト3:事故コスト
軽微な接触事故でも、保険を使えば等級ダウンと翌年以降の保険料増、使わなければ修理費の自己負担が出る。どちらでも、車両が止まる期間の売上が消える。件数を把握していない会社ほど、このコストは各費目に散らばって見えなくなる。
コスト4:採用・離職コスト
ドライバー1人が短期で辞めると、求人広告費・面接の手間・研修・欠員期間の機会損失が発生する。当サイトの試算では1人あたり¥145,000〜¥320,000(内訳はドライバー定着の記事)。年5人が入れ替われば、年¥725,000〜¥1,600,000(筆者試算)になる。
コスト5:中間マージンによる単価の天井
元請けから仕事を受ける限り、受取単価には上限がある。荷主の発注額が1日¥20,000、二次委託として受け取る額が¥16,000とすると(筆者試算)、差の¥4,000はどれだけ効率化しても取り戻せない。
1台・月20日稼働
荷主直取引 ¥20,000 × 20日 = ¥400,000/月
二次委託 ¥16,000 × 20日 = ¥320,000/月
差額 ¥80,000/月(試算)
元請け1社依存が「断れない会社」をつくる
コスト5と裏表の関係にあるのが、売上の大半を1社の元請けに頼る構造だ。
単価交渉ができなくなる
交渉の前提は「断れること」だ。売上の大半を占める相手に「単価を上げてほしい」とは言いにくい。燃料費・保険料・人件費が上がっても単価が据え置かれる——これが「売上は増えても手残りが薄い」状態を固定する。
繁閑の波を丸ごと受ける
元請けの繁閑は、そのまま自社の仕事量になる。仕事が減った月も、車両リースや保険は毎月出ていく。取引先が複数あれば、繁閑のタイミングをある程度ずらせる。
打ち切りが来た月に売上が消える
元請けの方針変更・事業縮小・契約見直しは、こちらの都合とは関係なく来る。依存度が高いほど、打ち切りの翌月から固定費を払う原資がなくなる。
依存度とリスクの関係を目安として整理すると、次のようになる。
| 最大取引先の売上構成比 | リスクの目安 | 打ち切り時に残る売上 |
|---|---|---|
| 30%未満 | 低 | 7割以上 |
| 30〜50% | 中 | 5〜7割 |
| 50〜80% | 高 | 2〜5割 |
| 80%超 | 極めて高 | 2割未満 |
※区分とリスク評価は筆者による目安。何か月耐えられるかは、固定費と手元資金によって会社ごとに大きく変わる。自社の「手元資金 ÷(固定費 − 残る売上の粗利)」で一度計算しておくとよい。
経営者が毎月見るべき指標
利益を守るには、月次で追う数字を先に決める。
| 指標 | 計算式 |
|---|---|
| 1台あたり粗利 | (月収入 − 燃料・保険・リース)÷ 台数 |
| 最大取引先の売上構成比 | 最大取引先の売上 ÷ 総売上 |
| 直取引比率 | 直取引の売上 ÷ 総売上 |
| 離職者数 | 直近3か月の離職者数(入社3か月以内の離職を分けて記録) |
| 事故件数 | 直近3か月の事故件数と、保険使用の有無 |
| 燃料費比率 | 月間燃料費 ÷ 月間売上 |
目標値は業態・荷物・エリアで変わるため、一律の基準は置かない。まず3か月分を記録し、自社の推移を見る。どのコストが膨らんでいるかは、数字を並べるまで分からない。
利益を守るための優先順位
すべてのコストを同時に削ることはできない。
1. 取引先を分散し、直取引を1件つくる
中間マージンによる単価の天井と、1社依存による交渉力の喪失は、他のコスト削減では補いきれない。既存の取引を捨てる必要はない。手順はこうだ。
- まず元請け別の売上構成比を「A社67%・B社22%・その他11%」のように数字で出す
- 次に、直取引を1件だけ取りにいく。1件あれば、次の営業で「既存のお客様がいます」と言える
- 1〜2年のスパンで、最大取引先の構成比を下げていく
直取引の入口として、荷主に検索で見つけてもらうHPの考え方は直取引を獲得するためのHP戦略にまとめた。
2. 離職を減らす
採用コストは、削れる経費の中でも効果が出るのが早い。入社前に実質手取りを説明する、稼働実績に応じた単価の見直し基準を示す、事故時の会社の動き方を明文化する——これらは大きな費用をかけずに始められる。
3. 燃料費は数字を持って交渉する
単価交渉では、ガソリン価格の推移と1台あたりの走行距離・燃料費を資料にして、燃料サーチャージを求める。感覚ではなく数字で話す。
まとめ
| 問題 | 解決の方向 |
|---|---|
| 燃料費が利益を圧迫する | 燃料サーチャージの交渉・ルートの見直し |
| 事故コストが積み重なる | 件数の記録・事故時の対応フローの整備 |
| 採用コストが重い | 入社前の説明と単価設計で離職を減らす |
| 中間マージンで単価に天井がある | 直取引を1件ずつ増やす |
| 1社依存で交渉できない | 売上構成比を把握し、取引先を分散する |
売上を増やすより先に、コスト構造と依存度を数字で見える状態にする。それが経営の出発点だ。
出典
- 東京商工リサーチ「『2024年問題』直前の軽貨物運送業 倒産と休廃業・解散の合計が3年連続で過去最多」(2024年2月21日) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198395_1527.html
本記事の燃料費・保険料・採用コスト・単価・依存度の区分は筆者試算です。実際の数値は地域・運用規模・契約形態によって異なります。