「あなたは個人事業主だから、保険も経費も自己負担です」
「でも、配送時間・ルート・服装はこちらの指示に従ってください」
この2つの文を同時に言う委託会社は、自己矛盾を犯している。
「指揮命令」と「業務委託」は両立しない
法律上、業務委託と雇用契約は明確に異なる。
業務委託(個人事業主)
- 仕事の結果に対して報酬を支払う
- 業務の進め方・時間・方法は受託者が決める
- 経費・保険は受託者負担
雇用契約(労働者)
- 労働時間に対して賃金を支払う
- 業務の指示・管理は使用者が行う
- 社会保険・有給休暇等の保護がある
問題は、多くの軽貨物委託が形式は業務委託、実態は雇用に近いという状態にあることだ。
配送時間・服装・顧客対応方法・休憩タイミングを細かく指示しながら、「個人事業主だから」と経費・保険を自己負担させる——この矛盾が、交渉の足がかりになる。
「労働者性」の判断基準
以下の要素が多く当てはまるほど、実態は労働者に近いと判断される。
- 仕事の諾否の自由がない(断ると関係が壊れる)
- 業務の内容・遂行方法を詳細に指示される
- 勤務時間・場所を指定される
- 他社の仕事を制限される
- 報酬が時間・出来高ではなく固定的
これらが多く当てはまる場合、委託会社が「個人事業主だから」と主張する根拠は弱くなる。
交渉の3つの切り口
切り口1:「指示をするなら、コストも負担してください」
指揮命令権を行使するなら、それに伴う責任・コストも負担すべきという論理だ。
「御社の指示に従って業務を行っているため、業務上発生する燃料費・保険料については、御社との費用分担を検討していただきたい」
この要求を断る場合、委託会社は「あなたは自由に業務を行っている個人事業主だ」という立場を維持しなければならない。それは、細かい指示の根拠を失うことを意味する。
切り口2:「事故時の責任は、指示した側にあります」
業務上の事故が発生した際、「ドライバーの全責任」とする委託会社は多い。しかし、指揮命令下での事故については、指揮者側にも責任の一端がある。
「業務上の指示に従った結果生じた事故について、責任の全部をドライバーが負うという契約条項は、法的に有効でしょうか。御社の顧問弁護士に確認していただけますか」
この一言で、多くの担当者は即答できなくなる。
切り口3:「単価の根拠を教えてください」
「この単価は業界標準です」という説明に対し、根拠を求める。
「荷主からの発注額と、御社の管理コストの内訳を教えていただけますか。適正な委託関係かどうか判断するために必要です」
開示できない場合、「適正な取引かどうかわからない」という事実が残る。
交渉時の3原則
1. 書面で残す 口頭での約束は、後日「言った・言わない」になる。交渉の内容は必ずメールや書面で確認する。
2. 感情を排除する 「搾取だ」「おかしい」という感情的な主張は、論理的な交渉を難しくする。数字と法律の論理だけで話す。
3. 最悪の場合を想定しておく 交渉が決裂した場合の次の一手(別の委託先・直案件の見通し)を持った上で交渉に臨む。退路がないまま交渉すると、常に相手が優位になる。
「NO」と言わせない、ではなく「YES」を引き出す
タイトルに「NO」と言わせないと書いたが、正確には「相手がNOと言いにくい状況を作る」ことだ。
論理的に矛盾を指摘し、書面で確認を求め、法的根拠を提示する——これらは脅しではなく、適正な取引を求める正当な行為だ。
それに対してNOと言う委託会社は、おそらく最初からYESを言うつもりがない会社だ。その判断が早くわかることは、むしろドライバーにとってプラスになる。
本記事は情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の状況については、労働基準監督署または弁護士にご相談ください。