この記事は、あのとき見えていなかった「差額」を、数字で分解するために書いている。
なぜ、誰も教えないのか
軽貨物の委託には特有の構造がある。荷主や元請けがいくら払っているかは、末端のドライバーに伝えられない。
一次委託会社が仕事を受け、自社の取り分を引いた額で次の会社やドライバーに発注する。ドライバーは「1万6千円の仕事」として受け取るが、上流でいくら動いているかは知らされない。
これは違法ではない。慣習だ。そしてこの情報の非対称性が、何層もの中間構造が温存される大きな理由になっている。
20,000円が16,000円になるまで(例示の試算)
以下は、構造を見えるようにするための例示の試算だ。特定の会社・案件の実データではない。
| 受け取り手 | 金額 | 差引 |
|---|---|---|
| 荷主(発注元) | ¥20,000 | — |
| 一次委託会社 | ¥18,000 | −¥2,000(10%) |
| 二次委託会社 | ¥16,000 | −¥2,000(約11%) |
| ドライバー(名目日当) | ¥16,000 | — |
- 一次委託が引く2,000円 → 配車・請求・トラブル対応などの対価
- 二次委託が引く2,000円 → 何の対価なのか、ドライバーからは確かめようがない
マージンそのものは事業コストとして成り立ちうる。問題は、何層で・何のコストに対して引かれているかが開示されないことだ。三次委託が入れば、さらにもう一段削られる。冒頭の現場メモは、まさにこの「もう一段」の位置だった。
公的な調査でも、この構造は確認されている。経済産業省・国土交通省・農林水産省の実態把握調査(令和5年4月、全日本トラック協会の会員向けアンケート)では、他社から運送依頼を受けることがある事業者のうち約半数が、さらに他の事業者へ委託していた。
1個単位で見ると、どう削られるか(例示の試算)
日当ではなく個建て(1個いくら)の場合も、構造は同じだ。仮に元請けが1個250円で受けた配達が、2次・3次と再委託されてドライバーに届くとする。
元請けが受け取る:250円
↓ 2次業者が15%取る(約37円)
2次業者から3次業者へ:約213円
↓ 3次業者が15%取る(約32円)
3次業者から委託会社へ:約181円
↓ 委託会社が10%取る(約18円)
ドライバーが受け取る:約163円
元請けが250円で受けた仕事が、ドライバーには約163円で届く。約35%が途中で消えている。
ここからさらに、燃料・車両・保険などの経費をドライバーが自分で払う。各段階の率は例示であり、実際の契約では層の数も率もまちまちだ。ただ「各層は小さく引いているつもりでも、重なると3割を超える」という掛け算の性質は変わらない。
16,000円は「売上」であって「利益」ではない
名目日当16,000円は手取りではない。個人事業主としての「売上」だ。
ここから、ドライバー自身が次の経費を払う(1日あたりの目安・筆者試算)。
- 燃料費:¥1,000〜¥3,000(走行距離・燃費による)
- 高速代:¥0〜¥1,500(ルートによる)
- 駐車場・コインパーキング:¥0〜¥800
- 車両維持費(リース・オイル・タイヤ・車検等を日割り):¥2,000〜¥5,000
- 通信費(日割り):¥300〜¥500
実質時給が最低賃金を割る(例示の試算)
中間的な値を取り、1日10時間稼働(拘束時間含む)で試算する。
名目日当 ¥16,000
─ 燃料費 − ¥ 2,000
─ 高速代 − ¥ 500
─ 車両維持費 − ¥ 2,500
─ 通信費 − ¥ 400
──────────────────
実質手取り ¥10,600
実質時給 = ¥10,600 ÷ 10時間 = ¥1,060
東京都の最低賃金は2025年10月の改定で 1,226円。
この試算の実質時給1,060円は、東京都の最低賃金を約166円下回る。
しかも、ここから国民健康保険・国民年金・所得税・住民税を払う。個人事業主は最低賃金の保護の外にいるため、こうした水準でも違法にはならない。
1年で見ると、中間マージンはいくらになるか
経費はどの働き方でもかかる実費だ。「消えている」と言えるのは、途中の層が引いた中間マージンのほうだ。
この例では1日4,000円。月22日稼働で換算すると:
- 月:¥88,000
- 年:¥1,056,000
年間約100万円が、ドライバーの手元に届く前に途中の層に分配されている計算になる。これが正当なコストか、過剰な中抜きかは、内訳が開示されて初めて判断できる。開示されないまま続く慣習を、この記事では「構造」と呼んでいる。
変えられるもの・変えられないもの
変えにくいもの(経費)
- 燃料代・高速代・車両維持費は、走行距離とルートに左右される
- 削れる余地は限られ、削りすぎれば安全を損なう
変えられるもの(契約構造)
- 間に入る層の数
- 控除の内訳を確認すること
荷主と直接契約できれば、この例では20,000円がそのまま発注単価になる。同じ経費を引いた実質手取りは約14,600円になる。直接契約には営業と信用の積み上げが要るが、層を1つ減らすだけでも手元に残る額は変わる。
まとめ:20,000円の行方(例示の試算)
| 行き先 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 一次委託会社のマージン | ¥2,000 | 10% |
| 二次委託会社のマージン | ¥2,000 | 10% |
| ドライバーが払う経費 | ¥5,400 | 27% |
| ドライバーの実質手取り | ¥10,600 | 53% |
荷主の発注額の約半分しか、実際に走った人の手取りにならない可能性がある。
知ることが、最初の武器になる
2024年11月に施行されたフリーランス法では、発注側に報酬額などの取引条件を明示する義務がある。上流の発注額までは開示させられなくても、自分の単価と控除の内訳を書面で確認することはできる。
知らなければ「今日も稼いだ」で終わる。知っていれば「自分はどこに、何のために、いくら渡しているのか」という問いが生まれる。その問いを持ったうえで「この委託関係を続けるか」「別の委託先を探すか」「直接交渉するか」を選ぶ——それが、情報を持ったドライバーにだけ開かれた選択肢だ。
金額・率は構造を説明するための筆者による例示の試算です。実際の数値は案件・地域・契約形態によって異なります。最低賃金は厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)による。