前回の記事では、荷主の発注額がドライバーの手元に届くまでに中間で差し引かれる構造を見た。
問題はそれだけではない。
委託会社から届く月次明細に、こんな記載が並ぶことがある(以下の数字は説明のための試算例)。
名目月収(¥16,000 × 22日) ¥352,000
─ 管理手数料16% − ¥56,320
─ 電算処理費(月額) − ¥10,000
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支払額 ¥285,680
¥352,000が¥285,680になる。 差額¥66,320が、2つの名目に分かれて消える。
この記事では、これを「二重控除」と呼んで構造を分解する。
二重控除の仕組み
二つの控除は、名目が違う。しかし差し引く先は同じ委託会社だ。
第一控除:管理手数料(16%)
- 名目:配車・管理・請求業務の対価
- 計算:名目日当 × 16%
- ¥16,000の場合:−¥2,560/日
第二控除:電算処理費(月額固定)
- 名目:配送管理システムの利用料
- 計算:月額固定 −¥10,000
- 22日稼働なら1日あたり約−¥455
月次で計算すると
月22日稼働・名目日当¥16,000として試算する。
名目月収(¥16,000 × 22日) ¥352,000
─ 管理手数料16%(¥352,000×0.16)− ¥56,320
─ 電算処理費(月額固定) − ¥10,000
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実質支払額 ¥285,680
実効控除率 = ¥66,320 ÷ ¥352,000 ≒ 18.8%
「手数料は16%」と聞いていても、固定費が別にあれば実際の控除率はそれより高くなる。しかも固定費は、稼働日が少ない月ほど控除率を押し上げる。月15日稼働なら、同じ条件で実効控除率は約20.2%になる(筆者試算)。
年間で消える金額
| 控除の種類 | 月額 | 年間 |
|---|---|---|
| 管理手数料16% | ¥56,320 | ¥675,840 |
| 電算処理費 | ¥10,000 | ¥120,000 |
| 合計 | ¥66,320 | ¥795,840 |
月22日を12ヶ月続けた場合、年間約80万円が二つの名目に分かれて差し引かれる(筆者試算)。
名目が分かれていると、合計が見えにくい
「16%」と「電算処理費¥10,000」に分かれていると、それぞれは”妥当そうな金額”に見える。
- 「16%は業界標準です」
- 「電算処理費はシステム維持のための実費です」
どちらも単体では反論しにくい。だが、ドライバーにとって意味があるのは合計で何%引かれているかだ。名目ごとではなく、合計の実効控除率で比べる習慣を持っておきたい。
法律ではどう見られるか
前提:どの法律の対象になるか
- フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月施行):従業員を使わない個人ドライバーへの業務委託が対象。発注側の資本金の大小は問わない。
- 取適法(旧下請法・2026年1月施行):委託会社の資本金や従業員数が一定規模を超える場合に対象。運送の委託では「資本金1千万円超」「従業員300人超」などが基準になる。
論点1:控除が発注時に明示されていたか
発注側は、業務委託をしたら直ちに、報酬の額・業務の内容・支払期日などを書面かメール等で示す義務がある(フリーランス法3条、取適法4条)。
手数料率や電算処理費を差し引いた結果として報酬がいくらになるのかが、発注時にはっきり示されていないなら、そもそも取引条件の明示が不十分な可能性がある。
論点2:「報酬の減額」にあたらないか
フリーランス法は、1ヶ月以上の業務委託で、ドライバーに責任がないのに報酬の額を減ずることを禁止している(5条1項2号)。取適法にも同じ趣旨の禁止がある(5条1項3号)。
公正取引委員会・厚生労働省の解釈ガイドライン「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」は、報酬の減額について次の点を明記している。
- 業務委託時に定めた報酬の額を減ずることは、減額の名目、方法、金額の多寡を問わず違反になる
- あらかじめ合意があったとしても、ドライバーの責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずれば違反になる
- 報酬の振込手数料をドライバーに負担させて報酬から差し引くことも、減額の例として挙げられている
実例もある。公正取引委員会は2025年12月、運送事業者が再委託先の運送事業者に支払う代金から**「元請管理手数料」等を差し引いていた**行為を、旧下請法の「減額」にあたるとして勧告した(南日本運輸倉庫株式会社、減額総額1,896万4,276円)。
ただし、すべての手数料が違反になるわけではない。業務委託時に定めた報酬がいくらなのかが出発点になる。発注時に「手数料を引いた後の金額が報酬」と明確に決まっていたのか、「日当¥16,000」を報酬として示したうえで後から名目を付けて差し引いているのかで、評価は変わりうる。
論点3:システムの利用を強制していないか
発注側が指定する役務を、正当な理由なく強制して利用させることも禁止されている(フリーランス法5条1項5号、取適法5条1項6号)。電算処理費が、ドライバーにとって必要性のないシステムの利用料を一律に負担させるものなら、この観点からも問題になりうる。
いずれも、該当するかは契約内容と実態による個別判断だ。ただ、「業界の慣習だから」という説明は、法律上の根拠にはならない。
まず確認すべきこと
明細に複数の控除項目がある場合、以下を順番に確認する。
- 発注時に示された報酬額はいくらか——契約書・発注メール・LINEで「報酬」として示された金額を確認する
- 各控除が発注時に示されていたか——「管理手数料16%」と「電算処理費¥10,000」がそれぞれ明記されているか
- 合計の実効控除率を計算する——全控除項目を足して、名目月収に対する割合を出す
- 控除の内容を書面で尋ねる——「管理手数料と電算処理費は、それぞれ何に対する費用か、メールでご説明いただけますか」
回答を拒まれた場合も、その事実を日付入りで記録しておく。次の交渉や相談での材料になる。
相談先
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託・第二東京弁護士会運営):0120-532-110。弁護士に無料で相談できる
- 公正取引委員会:フリーランス法違反申出窓口/取適法の申告窓口。名前を出さずに使える情報提供フォームもある
本記事は情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の状況については、フリーランス・トラブル110番または弁護士にご相談ください。
参照した一次資料
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 3条・5条(e-Gov法令検索)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律 4条・5条(e-Gov法令検索)
- 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(PDF)
- 公正取引委員会・中小企業庁「運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について」(2025年12月23日)