軽貨物業界には問題が積み重なっている。低単価、多重下請け、長時間労働、2024年問題、採用難。
このなかで「単価が上がらない」ことの根っこはどこにあるのか。そして、品質に見合った単価——仮に現行の2倍——を払ったら、消費者の送料も2倍になるのか。
公的資料で確認できることと、筆者の試算を分けて順番に見ていく。
まず構造を整理する
1つの配送が生まれるまでの流れは、おおむねこうなっている。
消費者(注文)
↓ 送料を払う(または「送料無料」表示)
ECサイト・荷主
↓ 配送委託
元請け運送会社
↓ 再委託
2次下請け
↓ 再委託
3次以下・軽貨物ドライバー(実運送)
経済産業省・国土交通省・農林水産省の「トラック輸送における多重下請構造についての実態把握調査」(令和5年4月27日公表、全日本トラック協会の会員事業者4,401回答)では、次のことが示された。
- 7割の事業者が下請のトラック事業者を利用しており、下請金額は受託金額のおおむね90%以上
- 他社から運送依頼を受けることが「ある」事業者のうち、約半数がさらに他の事業者へ委託している
- 中小零細ほど3次請け以上の割合が高く、資本金1,000万円以下の事業者では約15%が3次請け以上(契約件数を同一と仮定した加重平均)
注意点がある。これは一般貨物(緑ナンバー)のトラック事業者への調査で、軽貨物の個人事業主を対象にしたものではない。それでも「段階ごとに差し引かれ、末端ほど取り分が薄くなる」という構造は、軽貨物の委託でも同じ形をしている。
ドライバーの手取りの現実(筆者試算)
宅配の個建て単価は契約・地域・元請けによって大きく違い、公的な統計はない。ここでは仮に1個150円として試算する。
- 1日150個 × 150円 = 日売上22,500円
- 月25日稼働で、月売上約562,500円
- 経費(燃料・車両・保険等)を売上の25〜40%とすると、残りは月約34〜42万円
この数字は「売上−経費」であって、会社員の額面給与とは比べられない。社会保険料・国民年金・税金はここから自分で払う。1日150個を25日続けられるかどうかも、コースと体力次第だ。
運賃の水準について、公的に確認できる数字もある。国土交通省が令和7年7月に公表した「標準的運賃」の実態調査では、令和6年3月告示の標準的運賃に対して**8割以上を収受できた事業者は約45%**だった(対象は全日本トラック協会の会員事業者)。緑ナンバーでも半数以上は、国が示す水準の8割に届いていない。
単価が上がらない4つの層
一つだけ切り取っても解決しない。根に近いものから順に並べる。
第1層:「送料無料」という表示
送料がゼロになったわけではない。商品価格に含めるか、販売事業者が負担するか、運送側への支払いを抑えるかのどれかで成り立っている。
消費者庁は2023年12月、「送料無料」表示そのものの規制は見送ったうえで、「送料当社負担」「○○円(送料込み)」といった表示への自主的な見直しを事業者に求めた。運送にコストがかかっていることが消費者に伝わりにくい——これが運賃交渉を難しくしている、という問題意識だ。
第2層:多重下請けによる報酬の希薄化
全日本トラック協会は令和6年3月の「多重下請構造のあり方に関する提言」で、多重下請構造を「トラック運送業界の大きな課題」とし、全体として2次下請までに制限すべきとした。
同じ月に告示された国土交通省の標準的運賃では、運賃水準を平均8%引き上げ、下請けに出す際の手数料として運賃の10%を別に収受する考え方が盛り込まれた。ただし、これは荷主に請求する際の目安であり、各段階で実際にいくら差し引かれているかは、ドライバーからは見えないままだ。
その後、2025年6月に成立した「トラック適正化二法」で、元請として運送を引き受ける事業者に再委託を2回以内に制限する努力義務が定められた。努力義務なので、罰則で一気に構造が変わるわけではない。
第3層:荷主・EC大手の価格決定力
委託単価に強い影響力を持つのは、物量を持つ荷主だ。
公正取引委員会は2020年2月、楽天市場の「送料無料ライン」一律導入をめぐり、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の疑いで楽天に立入検査を行い、緊急停止命令を申し立てた(楽天が出店者の任意参加に切り替えたことを受けて取り下げ)。送料の負担を誰に寄せるかは、それだけ力関係に左右される。
2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)では、発荷主が運送事業者に運送を委託する取引が「特定運送委託」として新たに対象に加わった。協議に応じない一方的な代金決定の禁止なども定められている。詳しくは取適法の解説で扱う。
第4層:個人事業主の交渉力
軽貨物ドライバーの多くは、雇用ではなく業務委託の個人事業主として走っている。最低賃金・残業代・社会保険の仕組みの外にいる。取引先が1社しかなければ、「嫌なら切る」という選択肢は相手にだけある。
2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)で、発注側には報酬額などの取引条件を明示する義務がある。交渉力の差は残るが、「条件を書面で確認する」ことは法律の後ろ盾がある行動になった。
体への負荷も数字に出ている。厚生労働省の令和6年度「過労死等の労災補償状況」では、脳・心臓疾患の支給決定件数は業種別で「運輸業、郵便業」が最多、中分類では「道路貨物運送業」が最多だった。個人事業主は、労災保険の特別加入をしていなければこの補償の外にいる。
単価が2倍になったら、送料は2倍になるか
仮に配送委託単価が現行の2倍(例:150円→300円)になったとする。消費者が払う送料も2倍になるか。
必ずしもそうはならない。 送料には、配達ドライバーへの委託単価のほかに、集荷・幹線輸送・仕分け拠点・システム・営業・各社の利益などが含まれているからだ。
ここで正確に言えるのは次のことだけだ。
- 配達部分の単価が150円上がれば、そのコスト増は1個あたり150円。送料全体に占める配達部分の割合が小さいほど、送料全体の上昇率は小さくなる
- 実際に消費者価格にどれだけ転嫁されるかは、荷主・EC事業者がどこまで吸収するかで変わる
送料の内訳は各社とも公表していないため、ここで具体的な構成比や最終的な値上げ幅は示さない。「配達単価2倍=送料2倍」という単純な話ではない、というところまでが確認できる範囲だ。
送料が上がったらEC売上は落ちるか
「影響はあるが、送料だけでは決まらない」が正確な答えだ。
米国のUX調査機関Baymard Instituteの調査では、購入手続きの途中でやめた理由のトップは「追加費用(送料・税・手数料)が高すぎる」で、「見ていただけ」を除いた離脱者の約4割が挙げている。送料が購買行動に効くのは確かだ。
一方で、1社だけが値上げするのと、業界全体が値上げするのとでは、消費者の反応が違う。2024年4月にはヤマト運輸が宅急便の届出運賃を平均約2%、佐川急便が平均約7%引き上げた。乗り換え先がない形での値上げは、「安い業者に逃げる」という選択肢を小さくする。
市場原理だけでは単価2倍にならない理由
需給だけ見れば、単価が上がる条件は揃いつつある。
「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の最終取りまとめ(2023年8月)は、何も対策を講じなければ2030年度に輸送能力の34.1%が不足する可能性を示した。
それでも末端の単価がすぐに上がらないのは、上で見た4層——表示、多重下請け、荷主の価格決定力、個人事業主の交渉力——が重なっているからだ。需要が逼迫しても、値上げ分は途中の層で吸収され、末端に届く前に薄まる。
比較:介護の処遇改善加算
需給の逼迫だけでは賃金が上がりにくい業界で、制度が賃上げの原資を用意した例がある。介護だ。
令和6年度の介護報酬改定では、それまでの3つの加算を一本化した「介護職員等処遇改善加算」が2024年6月に創設され、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップにつながるよう加算率が引き上げられた。
介護と軽貨物には共通点がある。
- 担い手が個人・中小零細に偏っている
- サービスの対価を決める力が、担い手の側にない
- 需給が逼迫しても、それだけでは賃金が上がらない
違いは、介護には公定価格(介護報酬)があり、その中に賃上げの原資を組み込めたことだ。軽貨物の運賃は自由契約で、同じ仕組みはない。軽貨物で単価が大きく上がるとすれば、「輸送能力不足が現実になる物理的な圧力」か、「取適法・フリーランス法・トラック適正化二法のような法的な枠組みが実際に運用されること」のどちらか、あるいは両方だろう。
ドライバー個人が今できること
構造が変わるのを待つだけでは、手取りは変わらない。個人で取れる手順を並べる。
1. どこで何円引かれているかを把握する
- 契約書に書かれた単価(1個あたり or 日当)
- 差し引かれている控除の内訳(電算処理費・管理費・車両関連費など)
- 自分が何次の位置で走っているか
フリーランス法で、発注側には報酬額などの取引条件の明示義務がある。「事業者として契約内容を確認したい」というスタンスで、控除の内訳を書面で求める。 説明できない・書面を出さない会社は、それ自体が判断材料になる。控除の中身は電算処理費・16%控除の解剖で詳しく扱っている。
2. 委託先を1社に絞らない
取引先が1社だけだと、交渉は成り立たない。副業的にでも別の委託先を持つと、今の委託先との条件交渉で「移れる先がある」状態になれる。
3. 委託の階層を減らす
2次・3次の位置で走っているなら、より上の層と直接契約できないかを探す。同じ荷物でも、どの層と契約するかで手元に残る額は変わる。車両・保険・届出が整っていて、すぐに稼働できることが条件になる。
4. 直接頼まれる体裁を整える
- 開業届
- 貨物軽自動車運送事業の経営届出(黒ナンバー)
- 任意保険・貨物保険の加入状況の確認
- 貨物軽自動車安全管理者の選任(選任期限と講習の解説)
- 見積書・請求書をすぐ出せる環境
5. 単価交渉は、数字・代替案・期限の3点で
- 数字で話す——「頑張っているのに」ではなく、稼働実績と経費の実数を示す
- 代替案を持つ——決裂したときに移れる委託先を先に確保しておく
- 期限を切る——「○月末までに回答をいただけますか」と伝える
一朝一夕では終わらない。ただ、単価は黙っていても上がらない。どこで削られているかを知り、削られる層を減らす方向に動いた人から、構造の外に出ていける。
出典・参照情報
- 経済産業省・国土交通省・農林水産省「トラック輸送における多重下請構造についての実態把握調査に係る調査結果」(令和5年4月27日) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/009_01_00.pdf
- 全日本トラック協会「多重下請構造のあり方に関する提言」(令和6年3月) https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/shitauke_teigen.pdf
- 国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました」(令和6年3月22日) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000294.html
- 国土交通省「『標準的運賃』に係る実態調査結果の公表」(令和7年7月11日) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000337.html
- 国土交通省 トラック運送業における多重下請構造検討会「とりまとめ」(令和7年6月) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001898301.pdf
- 消費者庁「物流の『2024年問題』と『送料無料』表示について」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/other/free_shipping
- 公正取引委員会「楽天株式会社に対する緊急停止命令の申立てについて」(令和2年2月28日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/feb/200228.html
- 政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」 https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
- 持続可能な物流の実現に向けた検討会「最終取りまとめ」(2023年8月) https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001626756.pdf
- 厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」
- 東京都福祉局「令和6年度介護職員等処遇改善加算」 https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/shogu/r6_shoguu
- ヤマトホールディングス「2024年4月1日から宅急便の届出運賃・料金を改定」 https://www.yamato-hd.co.jp/news/2023/newsrelease_20240112_1.html
- 佐川急便「2024年4月1日付宅配便届出運賃等の改定のお知らせ」 https://www2.sagawa-exp.co.jp/whatsnew/detail/2147/
- Baymard Institute「Cart Abandonment Rate Statistics」 https://baymard.com/lists/cart-abandonment-rate
個建て単価・経費率・月売上は筆者試算であり、契約・地域・稼働条件によって大きく異なります。