前の記事で、軽貨物業界の構造を解剖した。
- 軽貨物の単価はなぜ上がらないのか——「送料無料という虚構」と「多重下請けによる末端転嫁」の連鎖、そして単価を上げるときの阻害要因
では、どうすればいいのか。
「どうすればいい」は、誰に向けた問いかによって答えが変わる。消費者、ドライバー、荷主・EC事業者、そして社会・政府。4者にそれぞれできることがある。
消費者が変えられること
消費者は「無力」ではない。ただし「すぐに変わる」とも言えない。
まず現状を確認する。
消費者庁の消費生活意識調査(2024年8月実施)では、「送料無料」表示の見直しの議論を「見聞きしたことがあり、内容もよく知っている」と答えた人は27.0%(2024年2月調査から+7.4ポイント)だった。
27%は多くない。しかし方向は正しい。
消費者に広めるべき意識は1つだ。
「送料無料は存在しない」
送料は誰かが払っている。荷主が払うか、ECサイトが価格に転嫁するか、運送会社が圧縮するか、ドライバーが吸収するかの違いだ。最終的にドライバーが吸収する構造が続いているのは、消費者がそれを求めているからではなく、「無料」という表示が消費者の感覚を歪めているからだ。
「送料200円」と「送料込み+200円の商品」は同じものだ。この単純な事実を理解している人が増えるだけで、構造への圧力になる。
消費者が今日できること:
- 「送料無料」表示を見たとき、「誰が払っているか」を1秒考える
- 置き配・日時指定を積極的に使う(再配達削減はドライバーの実働を減らす)
- 「送料が安い=良い」という評価軸を疑う
ドライバーが今できること
個人事業主のドライバーが構造を変えることはできない。しかし、構造の中で最も有利なポジションに移動することはできる。
1. 多重下請けの外に出る
直取引・一次請けに近づくほど、取り分は増える。
PickGoのような配送マッチングサービスは、荷主の依頼をアプリ上でドライバーが受けられる仕組みだ。委託会社を何段も挟む案件に比べて、間に入る層を減らせる可能性がある。ただし運営会社の手数料はかかるし、案件ごとの単価も一律ではない。「プラットフォームなら必ず取り分が増える」わけではないので、同じ距離・時間の案件で手取りを比べて判断したい。
2. 法人化してスケールする
個人事業主には交渉力がない。しかし法人は違う。
社会的信用が上がり、荷主と直接契約できる可能性が広がる。ドライバーを束ねれば、1人で交渉するより条件を出しやすくなる。一方で、社会保険・経理・車両管理などの負担とリスクも増える。
全員が法人化すべきとは言わない。ただ「個人事業主のまま単価交渉」は構造的に不利だという事実は理解すべきだ。
3. 専門特化する
単価が高い案件には条件がある。医療機器搬送、冷凍・冷蔵、精密機器など、一般宅配より専門性が要る仕事は単価が高い。
汎用配送で単価を上げようとするより、専門領域を作る方が現実的な賃上げ策だ。
荷主・EC事業者に求められること
この層が最も変化を嫌がっている。
公正取引委員会の「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」では、取引価格が引き上げられた割合が低い業種として道路貨物運送業(68.5%)が挙げられた。さらに、道路貨物運送業などのサプライチェーンでは「多重委託構造が存在し、かつ、価格転嫁が円滑に進んでいないことがうかがわれる」と指摘されている。
運送の現場では、上から降りてくる価格が上がらないまま、委託の段ごとにコストが押し付けられていく。
この構造の問題は、「転嫁しない」選択が短期的には競争優位になってしまうことだ。送料を値上げすれば顧客が逃げる。だから誰も先に動かない。
これは囚人のジレンマだ。
全員が同時に動けば消費者も受け入れる。しかし一社だけが動けば顧客を失う。だからこそ、法的強制力が必要になる。
物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)は、2025年4月にすべての荷主・物流事業者へ効率化の努力義務を課し、2026年4月からは一定規模以上の荷主(特定荷主)に「物流統括管理者(CLO)」の選任と、中長期計画の作成・定期報告を義務付けた。 取組が不十分なら国が勧告・命令できる。荷主の責任が法律で求められる仕組みが動き始めた。
社会・政府が動く方向
前回の記事で「介護の処遇改善加算モデルが唯一の突破口」と書いた。
確認できた政策の方向性を整理する。
動いていること:
- 物流効率化法:2025年4月に全荷主・物流事業者へ努力義務、2026年4月に特定荷主へ物流統括管理者の選任・中長期計画・定期報告を義務化。政府目標は2028年度までに、5割の運行で荷待ち・荷役等時間を1時間削減(1運行あたり計2時間以内)し、5割の車両で積載効率50%を実現すること
- 標準的運賃の改定(令和6年3月):平均8%引き上げ、荷待ち・荷役の別建て加算を追加
- 取適法(中小受託取引適正化法、2026年1月施行済み):下請法を改正。協議に応じない一方的な代金決定の禁止や、荷主が商品の引渡しに必要な運送を委託する取引(特定運送委託)を対象に追加
- フリーランス法(2024年11月施行済み):個人で受ける業務委託に、取引条件の明示・60日以内の支払・減額禁止などを義務付け
まだ動いていないこと:
- 介護型の「処遇改善加算」相当の公的資金による賃上げ支援
- EC大手に対する価格転嫁拒否への課徴金制度
- 個人事業主への集団交渉権の付与
2028年度の数値目標の達成が最初の試金石になる。「法律は作った、しかし実態は変わらない」というパターンを繰り返さないためには、達成率の公開と未達企業への指導が必要だ。
意識を広めるために何が有効か
農業・漁業の事例が参考になる。
産直SNS「ポケットマルシェ」の登録ユーザーは、2020年2月末の約5万2,000人から、同年10月末に約23万5,000人まで増えた(運営会社発表)。農家・漁師がSNSで「自分が作ったものを自分で売る」姿を発信し始めたとき、消費者の意識が変わった。
変化のパターンはこうだ。
実態の可視化
↓
「誰が何をしているか」が見える
↓
消費者が中間搾取に気づく
↓
直接支援・直接購入の選択が生まれる
↓
価格決定権が生産者側に移る
軽貨物でも同じことが起きる可能性がある。
ドライバーが「自分が1日何個配達して、いくら受け取っているか」を発信する。消費者が「払った送料のうち、運んだ人に届くのはいくらか」という構造を知る。荷主が「うちの物流コストはドライバーにこう分配されている」と開示する。
フェアトレードの認知率は32.8%(2019年、日本フェアトレード・フォーラム調査)で、初めて3割を超えた。軽貨物でも、まず「知っている人」を増やすことが最初の一手だ。
解体真書がやること
このメディアが軽貨物業界について発信し続ける理由を最後に書く。
構造を変えるには、まず「構造を知っている人」が増えなければならない。
感情的な告発は共感を生むが、構造は変えない。データと事実で業界を解剖し、「なぜそうなっているか」を示す。その積み重ねが、消費者・ドライバー・荷主それぞれの判断材料になる。
「送料は誰かが払っている」という一行を、今日1人に伝えること。それが、この構造を動かす最初の圧力になる。
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