本文へスキップ
軽貨物解体真書KNOWLEDGE FOR THE ROAD AHEAD
MENU +
解剖

なぜ日本の軽貨物ドライバーはストライキしないのか

日本の労働争議は1974年の10,462件をピークに、2024年は278件まで減った。個人事業主の軽貨物ドライバーは、そもそも労働組合法上の保護を受けにくい。韓国の貨物ドライバーとの違いも含め、声を上げにくい構造を整理する。

2026年4月5日 最終更新 2026年9月17日

なぜ、日本の軽貨物ドライバーは声を上げないのか。

「日本人はおとなしいから」で済む話ではない。調べると、軽貨物ドライバーには声を上げにくい法的・構造的な理由が重なっている。


日本の労働争議は大きく減った

厚生労働省「労働争議統計調査」によると、総争議の件数は1974年の10,462件がピークだった。

2024年の総争議は278件、そのうちストライキなどの争議行為を伴う争議は76件だ。半世紀で、労働争議は大きく減った。

労働組合の推定組織率も、1949年の55.8%から、2025年には16.0%まで下がっている(厚生労働省「労働組合基礎調査」)。

背景には、春闘方式による協調的な労使関係の定着、1975年のスト権ストの敗北、企業別組合の構造、非正規雇用の拡大などが挙げられる。ただ、軽貨物ドライバーにとってはもっと手前の問題がある。


軽貨物ドライバーは「労働者」として扱われにくい

憲法28条は、団結権・団体交渉権・争議権(労働三権)を「勤労者」に保障している。

だが、業務委託で走る軽貨物ドライバーの多くは個人事業主だ。契約の形のままなら、労働組合法上の「労働者」とは扱われにくい。組合をつくって団体交渉を求めても、相手が応じる義務があるとは限らない。

さらに、事業者どうしが集まって「この単価では受けない」と申し合わせると、独占禁止法上の問題(不当な取引制限)を指摘されるおそれもある。

例外はある

最高裁は、形式上は業務委託でも、実態として相手方の事業に組み込まれ、報酬が労務の対価と言えるような働き方をしている人を「労組法上の労働者」と認めたことがある(INAXメンテナンス事件・2011年、ビクターサービスエンジニアリング事件・2012年)。

特定の委託先に専属し、時間や方法を細かく指定されている軽貨物ドライバーなら、労働者性が認められる可能性はある。ただ、それを確かめるには労働委員会や裁判での判断が必要で、日々走っている個人には重い。


韓国の貨物ドライバーはどうか

よく比較されるのが韓国だ。

韓国の貨物ドライバーにも、自分の車を持ち込む個人事業主(車主)が多い。彼らが加入する「貨物連帯(公共運輸労組 貨物連帯本部)」は、大規模なストライキを何度も行ってきた。

  • 2022年6月:コンテナ・セメント輸送の「安全運賃制」(運賃の下限を法で定める制度)の延長などを求めてスト。政府と延長推進で合意して終結した
  • 2022年11〜12月:安全運賃制の失効を前に再びスト。政府がセメント・鉄鋼などの運転者に業務開始命令を出し、終結。安全運賃制は2022年末で失効した
  • 2026年1月〜:法改正により、安全運賃制がコンテナ・セメント品目で3年間の時限措置として再導入された

ただし、韓国でも貨物ドライバーの法的地位には争いがある。2022年のストの際、韓国公正取引委員会は貨物連帯を「事業者団体」とみなして調査に乗り出した。これに対し2025年6月、調査妨害で起訴された件で一審裁判所は、貨物ドライバーを労組法上の労働者と認めて無罪とした。

つまり韓国も「個人事業主ドライバーにスト権が当然にある国」ではない。法的地位があいまいなまま、組織として集まり、争ってきたという点が日本との大きな違いだ。


フリーランス法は「交渉力」までは与えない

2024年11月、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行された。

業務委託で走る個人の軽貨物ドライバーは、多くの場合この法律の「特定受託事業者」にあたる。発注側には、取引条件の明示、原則60日以内の報酬支払いなどが義務付けられ、一定期間以上の継続的な委託では、報酬の減額や買いたたきなども禁止されている。

ただしこれは取引ルールの整備であって、団結権や団体交渉権を与えるものではない。違反があっても、行政に申し出るのは本人で、取引先との関係を考えると簡単ではない。


構造をまとめる

層内容
法的構造個人事業主は労組法上の労働者と扱われにくい。集団での単価の申し合わせは独禁法上の問題を指摘されるおそれ
歴史的構造協調的な労使関係の定着、組織率の低下
業界固有ドライバーは委託先ごとにばらばらで、横のつながりを作りにくい

では、どうするのか

ストライキという手段が現実的でないなら、個人の交渉力を上げるしかない。

  • 自分の契約条件を書面で確認する(フリーランス法で、発注側には条件の明示義務がある)
  • 手数料や控除の内訳に説明を求める
  • 割に合わない案件は、手取りを計算した上で断る
  • 支払遅延や一方的な減額があれば、公正取引委員会・厚生労働省の窓口(フリーランス・トラブル110番など)に相談する

物流法改正で下請け構造の見える化も進み始めた。制度は少しずつ変わっている。だが、条件を確かめ、数字で判断する習慣は、制度を待たずに今日から持てる。


出典

解

この記事を書いた人

軽貨物解体真書 筆者軽貨物を約4年走った個人事業主

コロナ禍に副業で軽貨物を始めて、約4年走りました。その間に感じた面倒や違和感から、 手取り診断・ 請求書ツール・ シフト表アプリまでAIを使って自分で作りました。ドライバーの募集はしていません——だから遠慮なく書けます。

筆者について・このサイトの方針 →

FREE RESOURCE LIBRARY

知ったことを、明日の仕事に。

AI事務・シフト管理・会社づくり・店じまい・車両管理。
5つの実務教材・ツールを、公式LINE登録で無料配布しています。

無料資料と受け取り方を見る ↗