開業したが仕事がない。委託会社のマージンが重い。Amazon Flexのブロックが思うように取れない。
仕事の取り方を調べると、「マッチングアプリに登録しましょう」「飛び込み営業しましょう」「信頼関係を築きましょう」という話が並ぶ。間違ってはいない。だが、足りない。
この記事では「何をやるか」の前に、「どこで戦うか」を間違えないための地図を書く。
第1章:宅配はレッドオーシャンになった
参入が増え、事故も増えた
軽貨物は届出で始められ、入口が広い。需要が動くたびに新規参入が流れ込んできた。
その影響は安全面に出ている。国土交通省によると、平成28年から令和5年にかけて、保有台数1万台あたりの事業用軽自動車の死亡・重傷事故件数は約4割増加した。これを受けて、2025年4月から貨物軽自動車運送事業の安全対策が強化された(第4章で扱う)。
経験の浅いドライバーが、個数に追われて走る。宅配一本で戦うことのリスクは、収入だけではない。
Amazon FlexとDSPは別の仕組み
Amazonの配送に関わる入口は、大きく2つある。
- Amazon Flex:個人事業主がアプリで配送ブロックを受ける仕組み。どれだけ稼働できるかは、Amazon側の配送需要とブロックの取り合いに左右される
- デリバリーサービスパートナー(DSP):Amazonと契約して配送事業を営む事業者のプログラム。Amazonは「Amazon配送サービスパートナープログラム」として、軽貨物運送業での開業・起業を募集している
Flexは始めやすいが、仕事量を自分でコントロールできない。事業計画の柱を1つのアプリに預けると、1社依存と同じリスクを抱える。
第2章:中抜き天国は終わったのか?
答え:終わっていない。構造化しただけだ
荷主 → 元請け → 二次請け → 三次請け → あなた
この経路の中で、各段階がマージンを取る。仮に各段階が15%ずつ取るとすると、次のようになる(例示の試算)。
| 階層 | 受取額(日当の場合・例示) |
|---|---|
| 荷主が支払う金額 | 20,000円 |
| 元請け(マージン15%) | 17,000円 |
| 二次請け(マージン15%) | 14,450円 |
| 三次請け(マージン15%) | 12,283円 |
荷主が2万円払っている仕事が、末端に届く頃には約1.2万円になる計算だ。月20日稼働なら、途中で分配される額は月約15万円、年約185万円になる。
筆者自身、走り始めたときは孫請けの位置だった。初月は「研修」名目で日当13,000円。あとから、元請けは初月から満額を払っていたと知った。自分が何次の位置にいるかを知らないまま走ることは、珍しくない。詳しくは報酬が2万円→1.6万円に減る仕組みに書いた。
公的な調査でもこの構造は確認されている。経済産業省・国土交通省・農林水産省の実態把握調査(令和5年4月、全日本トラック協会の会員4,401者回答)では、他社から運送依頼を受けることがある事業者のうち約半数が、さらに他の事業者へ委託していた。
個建て単価でも同じ構造
宅配の個建て単価にも同じ形でマージンが入る(例示)。
- 荷主側の単価:200円/個
- 1段目のマージン後:170円/個
- 2段目のマージン後:140円/個
手元の「1個140円」は、上流では200円だったかもしれない。
多重下請けそのものは違法ではない。2025年6月に成立したトラック適正化二法で、元請に再委託を2回以内に制限する努力義務が定められたが、罰則のある禁止ではない。だから問題は、あなたがこの構造のどこに立つかを選べるかどうかだ。
第3章:宅配以外の選択肢を比べる
「宅配以外に何がある?」——働き方ごとの違いを整理する。報酬額は契約・地域・時期で大きく違うため、以下は筆者試算の目安として見てほしい。
業務形態別の比較
| 宅配(個建て) | 企業配(日当制) | チャーター便 | スポット便 | |
|---|---|---|---|---|
| 報酬の決まり方 | 1個いくら | 1日いくら | 1回・時間・距離 | 案件ごと |
| 日収の目安 | 件数次第で幅が大きい | 1.5万〜1.8万円程度 | 案件次第 | 案件次第 |
| 労働時間 | 長くなりやすい | 比較的一定 | 案件次第 | 案件次第 |
| 土日祝 | 稼働あり | 休みの案件が多い | 案件次第 | 案件次第 |
| 再配達 | 発生する | ほぼなし | なし | なし |
| 収入の安定度 | 季節・天候で変動 | 高い | 中 | 低い |
宅配の再配達率について、国土交通省のサンプル調査では令和7年10月で約8.3%だった。個建て報酬では、再配達は時間とガソリンを使って追加収入ゼロ、になりやすい。
時給で比べると逆転することがある
例えば次のように比べてみる(例示の試算)。
- 宅配:日収20,000円 ÷ 12時間 = 時給約1,667円
- 企業配:日収16,000円 ÷ 8時間 = 時給2,000円
日収だけ見ると宅配が高く見えても、時間で割ると企業配が上回ることがある。企業配にも、重量物の扱いや日収の上限が低いといった弱点はある。ただ「続ける」という視点で見れば、働き方の比較は日収ではなく時間あたりでするべきだ。
荷物カテゴリで「天井」が決まる
同じ軽貨物でも、何を運ぶかで収益の構造が違う。
- 宅配(個建て):参入者が最も多く、下請け・孫請けとして入ることが多いため、単価交渉の余地は小さい。1日に配れる個数には物理的な上限があり、「量を増やす」戦略には天井がある
- 企業配(ルート配送):固定報酬型が多く、収入は安定するが上限もはっきりしている。生活のベースを作るのに向く
- スポット便・チャーター便:急ぎの需要に応える分、時間あたりの単価が高くなる案件もある。ただし安定供給はない。PickGo・ハコベルなどのマッチングサービスや、地域の運送会社とのつながりが主な入口になる
- 医療・精密機器・美術品など:「ミスが許されない」「温度管理が要る」「振動対策が要る」荷物。発注側が価格より信頼性を重視するため、単純な値下げ競争になりにくい。そのかわり専門知識・設備・実績が必要で、始めたばかりの人がすぐ入れる領域ではない。公開された単価情報も乏しい
どのカテゴリに時間を使うかは、1個・1日の単価ではなく**「1時間でいくら生むか」**で判断する。
第4章:仕事を取るための現実的な5つの戦略
戦略1:収入源を分散させる
1つの仕事に依存しない。たとえば次のような組み方がある(配分は一例)。
- 企業配などの固定案件:生活費のベースを確保する
- スポット・チャーター:上乗せ収入
- マッチングアプリ:隙間時間の活用
「全部宅配」「全部Amazon Flex」は、1社依存と同じリスクを抱える。固定案件で下限を作り、スポットで天井を外す二層構造にしておくと、どちらか一方が止まっても立て直せる。
戦略2:直請けの荷主を1社でいいから獲る
下請けの位置にいる限り、単価は上流で決まる。直請けの荷主を1社持つだけで、収入構造が変わる。
営業先として検討しやすい業種の例:
- 食品・飲食店への配送:定期便になりやすい
- 小規模なEC事業者:大手物流に乗りにくい小ロットの配送ニーズがある
- 建設・内装業者:資材の急ぎ便
- 士業・不動産:書類の急ぎ便。小さい仕事だが関係が続きやすい
- 医療・検体関連:信頼性が最優先される。求められる管理体制は事前に確認が必要
具体的なアプローチ方法:
- Googleマップで「地域名 + 業種」で検索し、個人経営〜小規模の事業者をリスト化する
- 料金表(A4 1枚)と名刺を用意する
- 「近くで軽貨物配送をやっています。急ぎの荷物があったときにお声がけください」と伝える
契約をその場で取りに行く必要はない。必要になったとき、あなたの名刺が机の上にあればいい。スポット便の実績を積み、特定の発注元との関係が深まった先に、直接契約がある。
戦略3:Webで「見つけてもらえる状態」を作る
急ぎの配送業者を探す事業者は、「地域名 軽貨物 配送」のような言葉で検索することが多い。そこで見つからなければ、選択肢に入らない。
最低限やること:
- Googleビジネスプロフィールに登録する(無料)
- 自社HPを作る(対応エリア・サービス・料金の目安・連絡先を載せるだけでいい)
- 「地域名 軽貨物 配送」で検索したとき、自社が表示される状態を作る
HPが1ページあるだけでも、問い合わせのきっかけになる。考え方は直取引を獲得するためのHP戦略に詳しく書いた。
戦略4:同業者とのつながりを使う
同業者から案件を紹介されたり、手が回らない仕事を回し合ったりすることは実際にある。X(旧Twitter)などで案件情報が共有されることもある。
「営業が苦手」という人ほど、この方法が合う。ただし、相場より極端に高い単価をうたう案件や、事業所の実在が確認できない相手には注意する。支払いが来ないまま消える手口の見分け方は軽貨物の詐欺の手口で扱っている。
戦略5:安全管理者の選任義務化を信用に変える
2025年4月から、貨物軽自動車運送事業者に貨物軽自動車安全管理者の選任が義務づけられた。個人事業主も対象で、除外されるのはバイク便事業者のみ。2025年3月31日までに届出をしていた既存事業者の選任期限は2027年3月31日で、選任には事前の講習修了が必要になる。選任しなかった場合の罰則は100万円以下の罰金だ(詳しくは安全管理者の義務化の解説)。
この制度で、安全管理がいい加減な事業者はふるいにかけられていく可能性がある。裏を返せば、講習を受け、選任・届出を済ませ、点検や記録をきちんと回している事業者は、荷主に対して**「安全管理体制を整えています」と具体的に言える**。これは営業の材料になる。
まとめ:仕事を取る前に、戦場を選べ
仕事の取り方は、方法論の前に戦場の選択が先だ。
- 宅配の個数競争で消耗を続けるか
- 企業配・チャーター・直請けを組み合わせて、続けられる収入を組み立てるか
どちらを選ぶかで、同じ「仕事の取り方」でも意味がまったく変わる。自分が今どの層の、どのカテゴリで、時間あたりいくら生んでいるか。そこを数字で把握するところから始めてほしい。
出典・参照情報
- 国土交通省「貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための制度改正について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000172.html
- 国土交通省「令和7年10月の宅配便の再配達率は約8.3%」 https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000956.html
- 経済産業省・国土交通省・農林水産省「トラック輸送における多重下請構造についての実態把握調査に係る調査結果」(令和5年4月27日) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/009_01_00.pdf
- Amazon配送サービスパートナープログラム https://logistics.amazon.co.jp/
単価・日収・時給は筆者による例示の試算です。具体的な単価・収入は地域・案件・契約条件により異なります。