稼げないのはあなたのせいじゃない。
「軽貨物で稼げない理由」を調べると、出てくるのはたいてい「効率化が足りない」「経費管理ができていない」「良い会社を選べばよかった」という内容だ。個人の努力や選択の問題として処理される。
だがそれは問いを間違えている。
ECが拡大し、荷物は増え、ドライバー不足が何年も叫ばれている。需要が増えて供給が減っているのに、なぜ現場の収入は増えないのか。なぜ同じ問題が10年以上解決されないのか。
個人の努力や会社選びでは説明できない。
軽貨物で稼げない本当の理由は「構造」にある。そしてその構造が長く変わらないのは、今の形で利益が出ている側に、変える動機が弱いからだ。
需要が増えても収入が増えない矛盾
通常の市場では、需要が増えて供給が減れば価格が上がる。働く側の収入も増える。
軽貨物ではこの原則が機能しない。
消費者向けEC(BtoC-EC)の市場規模は、2014年の約12.8兆円から2024年の約26.1兆円へ、10年で約2倍になった(経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」)。2024年4月からはトラックドライバーの時間外労働に上限規制がかかり、運び手はさらに足りなくなると言われている。
なのに、末端で走るドライバーの単価が需要の伸びに見合って上がった、という形にはなっていない。
これは偶然ではなく、構造の結果だ。
「業務委託」という名の責任分離装置
軽貨物業界の雇用形態は原則として「業務委託(個人事業主)」だ。これが現場が貧しい理由の起点になっている。
業務委託という形態は、委託する側に一方的に有利に設計されている。
委託する側が得るもの
- 社会保険・雇用保険の負担ゼロ
- 残業代・深夜割増の概念がない
- 事故が起きてもドライバーの自己責任として処理できる
- 荷物が減ったら発注を絞れる(雇用調整コストゼロ)
- 単価を自由に設定できる
ドライバー側が背負うもの
- 車両購入費またはリース代(月3〜5万円)
- 燃料費(月3〜6万円)
- 自動車保険・貨物保険(月1〜2万円)
- 修理・メンテナンス費
- 確定申告の手間とコスト
- 労働基準法の保護外(残業代なし・有給なし。労災は特別加入すれば対象になる)
上の目安(筆者試算)で、月8〜13万円前後の経費をドライバーが自己負担している。売上の見た目と手残りに大きな乖離があるのはここが原因だ。
他業種の「業務委託」と決定的に違う点がある。フリーランスのエンジニアやデザイナーも業務委託だが、「スキルの希少性」によって単価交渉ができる。代替できる人間が少ないから価格を主張できる。
軽貨物は普通免許と軽バンがあれば誰でも始められる。代替可能な人材が常に存在する構造の中では、個人が単価交渉しようとしても「嫌なら辞めていい」が成立する。
業務委託という形態が、交渉力ゼロの環境に置かれた個人に適用されたとき、それは「自由な働き方」ではなく「リスクの外注」として機能する。
多重下請けが単価を食いつぶす仕組み
荷物が荷主からドライバーに届くまでの経路がある。
荷主(大手EC・メーカー)
↓ マージンを取る
元請け運送会社(大手)
↓ マージンを取る
二次請け(地場の運送会社)
↓ マージンを取る
三次請け(配車・マッチング業者)
↓
軽貨物ドライバー(個人事業主)← 走る
各層が存在理由を持ち、マージンを取る。荷主が設定した単価の何割かが中間層で消え、残りがドライバーに届く。
この構造は違法ではない。
建設業には「一括下請負の禁止(建設業法22条)」がある。運送業にはこれと同じ「禁止」はない。
ただし、まったくの野放しでもなくなった。2024年の物流法改正(改正貨物自動車運送事業法)で、トラック運送の多重下請けに段階的なルールが入っている。
- 2025年4月〜 実運送体制管理簿:荷主から1.5トン以上の貨物を引き受けて他社に運送を委託した元請事業者は、実際に誰が運んだか(実運送事業者の名称や請負階層)を記録・保存する。なお、国交省のQ&Aでは作成主体から貨物軽自動車運送事業者は除かれている
- 2025年4月〜 書面交付・健全化措置:運送契約の締結時に書面を交付する義務と、委託先の適正な運賃確保などに取り組む努力義務
- 2026年4月〜 委託次数の制限:トラック運送・利用運送の元請事業者は、再委託を2回以内に抑えるよう努める(努力義務)
軽貨物の個人ドライバーは多くの場合この連鎖の末端にいるので、義務を負うのは主に上の層だ。
見える化と努力義務であって、多重下請けそのものの禁止ではない。中間業者のマージンに上限がかかったわけでもない。現場に効いてくるかは、これからの運用次第だ。
参入障壁の低さも問題を深くしている。軽貨物(黒ナンバー)は許可制ではなく届出制で、軽貨物車両1台と車庫があれば普通免許で始められる。参入しやすいから競争が激しくなる。競争が激しくなるから単価が下がりやすい。
この循環が「需要が増えても収入が増えない」という現象の正体だ。
なぜ構造が変わりにくいのか
構造の問題は10年以上前から指摘されている。ドライバー不足も毎年話題になる。それでも大きくは変わっていない。
理由のひとつは、今の構造で利益が出ている層がいることだ。
| 層 | 今の構造で得ているもの |
|---|---|
| 元請け運送会社 | 自社で車両・人員を抱えずに配送網を維持できる |
| 配車会社・中間業者 | 走らずに手数料を得られる |
| 荷主(EC・メーカー) | 配送コストを抑えて価格競争力を保てる |
誰かが悪意で仕組んだというより、それぞれが自社の利益に合理的に動いた結果、末端の単価を上げる動機を持つ層がいない。構造を変えることは、自分の収益モデルに手を入れることになるからだ。
2024年問題の上限規制は、業務委託ドライバーには及ばない
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限がかかった。ただしこれは労働基準法上の「労働者」に対する規制で、業務委託で走る個人事業主の軽貨物ドライバーには適用されない。
標準的な運賃が末端に届きにくい理由
2020年4月、国土交通省はトラック運送の「標準的な運賃」を告示した(2024年に改定)。運送事業者が荷主に適正運賃を求める根拠にするためだ。ただ、元請けが荷主から運賃を上げてもらえても、その分が下の層まで配分される仕組みは法律上ない。流れを変える動機がなければ、制度だけでは現場の単価は動きにくい。
「根性論」が構造を見えなくする
若者が辞めると、業界ではよくこう言われる。
「最近の子はすぐ辞める」「根性がない」
「稼げないのは根性が足りないから」という語りが広まると、苦しんでいる人は「自分の努力不足だ」と考えるようになる。構造への疑問を持たなくなる。疑問を持つ人がいなければ、構造は変わらない。
業界の問題を発信すること自体は悪くない。ただ、「業界が悪い」と言うことと、自社のドライバーへの配分や契約条件を良くすることは別の行動だ。発信を見るときは、その会社の契約条件や単価が実際にどうなっているかで判断したい。
「個人の努力で解決できる」という言説の問題
「稼げない人には特徴がある」「効率化すれば稼げる」「良い会社を選べばよかった」
これらは完全に間違いではない。個人の努力や選択が収入に影響することは事実だ。
しかし、構造的な問題を個人の問題として処理することで、構造への批判が「甘え」として退けられる空気が作られる。誰も構造を変えようとしなくなる。
市場の原則が機能しない環境で、個人の努力を積み上げても天井は変わらない。努力で補修できるのは個人の問題だけだ。設計ミスは個人では直せない。
稼げないのは個人の問題ではなく、設計の問題だ。
構造を知った上でどう動くか
構造を批判するだけで終わらせない。
この業界には努力だけでは変えられない部分がある。単価交渉力がない環境で消耗し続けることは合理的ではない。
走って稼ぐことを否定しない。ただ、走ることだけに依存した収入設計は、この業界の構造上、天井が低い。
現場で走りながら「走る以外の収入」を作ることが現実的な抜け道だ。AIや自動化ツールを使って小さい仕組みを作る。HP制作、業務自動化、情報発信。走って稼いだ金と時間を「作る側に回るための投資」に使う。
抜かれる構造から出ることは、諦めではない。計算だ。
まとめ
軽貨物で稼げないのは、努力不足でも会社選びのミスでもない。
「業務委託で全リスクをドライバーに転嫁する」「多重下請けで単価を食いつぶす」「参入障壁の低さで交渉力をゼロにする」この3つが組み合わさった構造の結果だ。
法改正で下請け構造の見える化や委託次数の努力義務は始まったが、多重下請けやマージンそのものが禁止されたわけではない。今の構造で利益が出ている側に変える動機が弱く、根性論がその構造を見えにくくしている。
構造を理解すれば、次の一手が変わる。根性で現状を耐えるより、構造の外に出るための武器を持つことが現実的な選択だ。
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出典
- 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」 https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法 Q&A(令和8年3月31日時点)」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001993961.pdf
執筆:軽貨物解体真書 筆者(コロナ禍に副業で軽貨物を始め、約4年走った) | keikamotsu-kaitaishinsho.com