「軽貨物 やめとけ」と検索したあなたに、先に答えを言う。半分正しい。
正確に言えば、やめとけなのは「軽貨物という職種」ではない。特定の契約の形だ。宅配下請けの歩合一本、車は会社のリース、契約書は読まずにサイン——この形なら、やめとけと断言する。逆に、その形を避けられるなら、軽貨物は今でも成立する仕事だ。
ひとつ注意してほしい。この検索で上に出てくる記事の多くは、軽貨物会社が採用のために書いている。「やめとけは誤解です」の結論が先に決まっている文章だ。このメディアはドライバーを募集していない。だから遠慮なく、データで解剖する。
結論:「やめとけ」の正体は職種ではなく、契約の形だ
やめとけと言われる原因は、運転や配達という仕事の中身ではない。リスクと決定権の配分にある。
これから挙げる7つの理由は、すべて1つの構造に還元できる。売上を決める権利は上にあり、コストとリスクの負担は下にある——この非対称だ。荷物を運ぶこと自体がきついのではない。この配分の最下層に、何も知らずに入ることがきついのだ。
順番に見ていく。
理由①:単価の決定権が、あなたにない
軽貨物の宅配下請けでは、1個いくらで運ぶかを自分で決められない。
消費者が実質負担する物流コストを700円とすると、元請けと中間業者が抜いた後、末端のドライバーに届くのは150〜170円前後、全体の約2割だ(編集部推計。算出過程は中抜きの全経路で公開している)。
値上げ交渉の相手は荷主ではなく、間の委託会社になる。委託会社もまた上に価格を握られている。つまり交渉のテーブル自体が、構造の外にある。この構造がどういう歴史で完成したかは別の記事で35年分を解剖した。
理由②:求人の「月収50万」は、あなたの給料の話ではない
求人広告の数字は月商、つまり売上だ。そこから燃料、任意保険、車検、タイヤ、通信費、委託手数料、税金と社会保険料が全部引かれる。
雇用なら会社が負担するものを、個人事業主は全部自分で払う。売上と手取りの差がどれだけ開くかは、報酬から16%が消える構造と収支の最適化で数字を出している。
俺の場合も、求人票の数字と通帳に残る数字は別物だった。差額の内訳を全部書き出して、初めて自分の立っている構造が見えた。
売上表記そのものは違法ではない。だが「50万稼げる」と読ませる設計になっている。数字の意味を確認しないままサインした人から順に、ギャップで消耗していく。
理由③:あなたは労働法に守られていない
業務委託の個人事業主には、最低賃金も残業上限も有給もない。労働基準法は「労働者」を守る法律で、「事業主」は対象外だからだ。
拘束13時間でも、法律上は誰も止めない。労災も自動では付かない。特別加入制度で自分で入り、保険料も自分で払う。事故のとき「ドライバー全責任」という条項がどう機能するかは、事故対応の解剖記事で書いた通りだ。
補足しておく。契約書の名前が「委託」でも、実態が指揮命令下の労働なら、労働者性が認められる余地はある。ただしそれは争って初めて認められるもので、走っている間のあなたを守ってはくれない。
理由④:リースは逃げ道を塞ぐ装置になる
「車がなくても始められる」は、この業界で一番よくできた罠だ。
会社のリース車で始めると、辞めるときに違約金や残債が立ちはだかる。稼げないから辞めたいのに、辞めるとカネを取られる。だから稼げないまま走り続ける。リース返却時に何が起きるかは実例で解剖した。
リース自体が悪ではない。「収入が下がったときに辞められない契約」と「収入を決める権利がない立場」の組み合わせが危険なのだ。この2つが揃った契約は、構造的に抜け出せない。
理由⑤:廃業者の4割は、開業5年未満だ
これは感想ではなく統計だ。東京商工リサーチの調査では、2023年の軽貨物運送業の倒産・休廃業は123件で3年連続の過去最多。そして開業5年未満の廃業が全体の40.5%を占める(出典:東京商工リサーチ)。
消えていく事業者の4割が、まだ5年目を迎えていない新参だった。入口を入った者から順に消えていく業界だということだ。あなたが特別に弱くなくても、無防備に入れば次の統計に入る。なぜ業界がこの失敗から学べないのかも含めて、数字は嘘をつかない。
理由⑥:事故リスクは増え続けている
国土交通省によれば、保有台数1万台当たりの事業用軽自動車の死亡・重傷事故は、2016年から2023年で約4割増えた(出典:国土交通省)。
荷物は増え、時間指定は細かくなり、1個あたりの単価は上がらない。急ぐしかない構造が、事故率に出ている。そして理由③の通り、事故のツケを受け止める保険も補償も、自動では用意されていない。2025年4月から安全管理は義務化されたが、義務化されたという事実自体が、それまで野放しだったことの証明でもある。
理由⑦:「誰でもできる」は「いつでも替えられる」と同じ意味だ
軽貨物は届出制で、車1台あれば始められる。入口の広さはメリットに見える。
だが雇う側から見れば、それは代わりがいくらでも補充できるという意味だ。代替可能な労働力は、価格交渉力を持てない。あなたが辞めても、明日には別の誰かが同じ単価で走る。「今がチャンス」と呼び込まれ続ける入口の先に、待遇が上がらない仕組みが最初から組み込まれている。
この「代替可能性」こそ、軽貨物が電気工事や塗装のような職人系と決定的に違う点だ。現場系16職種を「10年後に残る資産」で並べると、軽貨物がどの位置に座るかが見える。現場系16職種の解剖で仕分けた。
それでもやるなら:「やめとけ」に該当しない4つの条件
俺は軽貨物を4年走った。やめとけとは言わない。ただ、何も知らずに入るなとは言う。7つの理由はすべて「契約の形」の話だ。つまり、形を変えれば外せる。
1つ目、車は自前で用意する。 リースで始めない。辞める自由を最初に確保する。中古の軽バンでいい。
2つ目、サインの前に契約書を全部読む。 手数料の内訳、支払サイト、違約金、事故時の負担。契約チェックリストを持って面談に行く。読ませない会社なら、その場で帰っていい。2024年11月からは、条件の明示は発注側の法的義務だ(出典:公正取引委員会)。
3つ目、宅配の歩合一本にしない。 企業配送やルート案件を混ぜて、単価交渉の余地がある仕事の比率を上げる。仕事の取り方は別で解説している。
4つ目、数字を記録する。 走った単価、経費、断った案件。記録がある人間だけが、辞めどきと続けどきを自分で判定できる。
まとめ:やめとけかどうかは、あなたの契約が決める
「軽貨物やめとけ」は半分正しい。宅配下請け歩合一本×会社リース×契約書を読まない——この形は、データの上でやめとけだ。廃業者の4割は開業5年未満、末端の取り分は約2割、労働法はあなたを守らない。
残りの半分はこうだ。車を自前にし、契約を読み、案件を混ぜ、数字を記録する人間にとって、軽貨物は今も成立する。危ないのは職種ではなく、無防備な入り方だ。
始める前に構造を知りたければ、搾取構造がどう完成したかの35年史から読んでほしい。構造を知った上でどちらに進むかは、あなたが決めることだ。
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執筆:軽貨物解体真書 編集部 | keikamotsu-kaitaishinsho.com